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東京地方裁判所 平成5年(ワ)70225号 判決 1995年12月25日

甲、乙事件原告兼丙事件被告

日本合同ファイナンス株式会社

(以下「原告ジャフコ」という。)

右代表者代表取締役

吉田真幸

丙事件被告

中信合同ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

齋藤澄彰

丙事件被告

ジャフコ・ピー2(エー)号投資事業組合

右組合員代表者

日本合同ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

吉田真幸

丙事件被告

ジャフコ・ピー2(ビー)号投資事業組合

右組合員代表者

日本合同ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

吉田真幸

丙事件被告

ジャフコ5号投資事業組合

右組合員代表者

日本合同ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

吉田真幸

(以下右四者を「丙事件被告ら」という。)

右五名訴訟代理人弁護士

飯田隆

宮谷隆

飯塚卓也

古曳正夫

中村直人

奥田洋一

甲事件被告兼丙事件原告

アップルジャパン株式会社

(以下「被告アップルジャパン」という。)

右代表者代表取締役

早藤茂人

乙事件被告

早藤茂人

(以下「被告早藤」という。)

右両名訴訟代理人弁護士

塚本宏明

池田裕彦

上田裕康

宮崎誠

甲、乙事件被告ら訴訟代理人弁護士

国谷史朗

桐山昌己

甲事件被告訴訟代理人弁護士

石川正

松本徹

乙事件被告訴訟復代理人弁護士

魚住泰宏

主文

一  原告ジャフコと被告アップルジャパン間の東京地方裁判所平成五年(手ワ)第三三号ないし第四三号及び同年(手ワ)第九二号約束手形金請求事件について同裁判所が平成五年三月二九日に言い渡した各手形判決を認可する。

二  被告早藤は、原告ジャフコに対し、金一億四四四五万六七七六円並びに内金二二一〇万八四二四円に対する平成四年一二月二六日から支払済みまで年一九パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による金員並びに内金一〇〇〇万円に対する平成五年二月三日から、内金一〇〇〇万円に対する同月二六日から、内金二一三六万九五一九円に対する同年三月二六日から、内金一〇〇〇万円に対する同年四月二七日から、内金一〇〇〇万円に対する同年五月二六日から、内金一〇七九万四一〇八円に対する同年六月二六日から、内金一〇〇〇万円に対する同年七月二七日から、内金一〇〇〇万円に対する同年八月二六日から、内金一〇一八万四七二五円に対する同年九月二八日から、内金一〇〇〇万円に対する同年一〇月二六日から及び内金一〇〇〇万円に対する同年一一月二六日から各支払済みまでいずれも年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  被告アップルジャパンの丙事件請求の趣旨第1項及び第2項中、別紙手形目録11ないし16記載の各約束手形にかかる訴えを却下する。

四  被告アップルジャパンのその余の丙事件請求をいずれも棄却する。

五  甲事件の異議申立後の訴訟費用及び丙事件の訴訟費用は被告アップルジャパンの、乙事件の訴訟費用は被告早藤の各負担とする。

六  この判決の主文第二項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

1 被告アップルジャパンは、原告ジャフコに対し、金一億四四四五万六七七六円及び別紙手形目録記載の各約束手形の手形金額に対する対応する各満期の日の翌日から支払済みまでいずれも年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告アップルジャパンの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1  原告ジャフコの訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告ジャフコの負担とする。

(本案についての答弁)

1  原告ジャフコの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告ジャフコの負担とする。

3  仮執行免脱宣言

(乙事件)

一  請求の趣旨

1 主文第二項と同旨

2 訴訟費用は被告早藤の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告ジャフコの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告ジャフコの負担とする。

(丙事件)

一  請求の趣旨

1 被告アップルジャパンと原告ジャフコ及び丙事件被告らとの間において、別紙株式譲渡目録記載の各株式譲渡契約が無効であることを確認する。

2 被告アップルジャパンと原告ジャフコとの間において、同被告が同原告に対し、別紙手形目録記載の各約束手形について手形金債務を有しないことを確認する。

3 原告ジャフコは、被告アップルジャパンに対し、同手形目録記載の各約束手形を引き渡せ。

4 原告ジャフコは、被告アップルジャパンに対し、金八一九九万八六二五円及び別紙弁済目録記載の各金員に対する対応する各弁済の日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

5 訴訟費用は、原告ジャフコ及び丙事件被告らの各負担とする。

6 第3項、第4項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1  請求の趣旨第1項にかかる訴えを却下する。

2  請求の趣旨第2項中、別紙手形目録11ないし16記載の各約束手形にかかる訴えを却下する。

3  訴訟費用は被告アップルジャパンの負担とする。

(本案に対する答弁)

1  被告アップルジャパンの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は被告アップルジャパンの負担とする。

第二  当事者の主張

(甲事件)

一  請求原因

1 原告ジャフコは、別紙手形目録記載の各約束手形一六通(以下「本件各手形」と称し、それぞれの約束手形を同目録の表示に対応して「本件1手形」のように略称する。)を所持している。

2 被告アップルジャパンは本件各手形を振り出した。

3 原告ジャフコは、支払呈示期間内に本件1、2手形を支払場所に呈示したが、支払を拒絶された。

4 原告ジャフコは、本件3ないし16手形について訴えを提起し、本件3ないし10手形については平成五年二月二日、本件11ないし16手形については平成五年一月二五日、被告アップルジャパンに訴状が送達された。

5 よって、原告ジャフコは、被告アップルジャパンに対し、本件各手形金及びこれらに対する応答する各満期の日の翌日から各支払済みまで手形法所定の年六分の割合による利息又は商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  被告アップルジャパンの本案前の主張

1 被告アップルジャパンは、本件各手形について手形金債務不存在確認の訴え(丙事件請求の趣旨2)を提起し、右訴状は、本件訴え提起以前である平成五年一月二八日、原告ジャフコに送達された。

本件訴えは、右手形金債務不存在確認の訴えと訴訟物を同じくするから二重起訴に該当し、不適法である。

2 右の場合に手形訴訟を提起すること自体は許されるとしても、異議申立後は通常訴訟と何ら変わるところはないから、本件訴えが二重起訴に該当することは明らかである。

三  本案前の主張に対する反論

手形金債務不存在確認訴訟(前訴)が係属している場合であっても、当該手形について手形訴訟(後訴)を提起することは民訴法二三一条に抵触しない。

四  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は否認する。

2 同2ないし4の各事実は認める。

五  抗弁

1 原告ジャフコは、野村証券株式会社系の日本最大のベンチャーキャピタルとして、ベンチャー企業のふ卵器としての役割を果たしていると一般に評価されている株式会社であり、中信合同ファイナンス株式会社を除くその余の丙事件被告らは、同原告が組合員代表者を務める投資事業組合である。

被告アップルジャパンは、コンビニエンスストアの経営を主な目的とする株式会社であり、昭和六二年七月前の資本の額は三〇〇〇万円であった。

2 原告ジャフコ及び丙事件被告ら他一名(以下「原告ら」という。)は、昭和六二年七月、被告アップルジャパンとの間で、同被告に出資しその株式を取得すること及び五年以内に同被告の株式の店頭登録又は証券取引所への上場が実現しないときは、同被告が原告らが取得した株式を買い戻す旨の合意をした。

原告らは、平成二年に至り、被告アップルジャパンがその所有する営業店舗の一部を第三者に譲渡し、同被告の株式が将来上場される可能性が皆無となり、将来の上場時のキャピタルゲインを取得することができなくなったことから、出資をした金員の回収を企図し、平成三年二月一三日、被告アップルジャパンに対し、右買戻の合意に基づいて、所有していた同被告の株式の買戻しを要求した。

3 原告らは、被告アップルジャパンに株式の買戻しを実行させるに当たり、出資した金額に年四パーセントの利息を付して株式の買戻価額を決定し、商法二一〇条が自己株式の取得を厳しく禁止していることから、これを潜脱する目的で、同被告を直接の譲受人とせず、被告早藤が代表取締役であり、かつ、同被告が株式の大半を所有するアップル不動産株式会社(以下「アップル不動産」という。)を名義上の譲受人として、平成三年三月二六日及び同月二九日、譲渡代金合計一億八九二五万五〇〇〇円の株式譲渡契約を締結した(別紙株式譲渡目録記載の譲渡は、原告ジャフコ及び丙事件被告らに関するものであり、以下「本件株式譲渡」という。)。

4 アップル不動産の当時の資本の額はわずか一〇〇〇万円にすぎず、原告ジャフコは、アップル不動産が譲渡代金の合計が一億八九二五万円余りにも及ぶ被告アップルジャパンの株式を取得しなければならない経営上及び業務上の必要性はないのみならず、右代金を支払う能力がないことが明らかであったため、平成三年三月二九日、右譲渡代金に同日から平成三年六月二七日までの利息金四三七万五四七九円を上乗せした一億九五〇〇万円を被告アップルジャパンに対し、貸し付けた(以下「本件貸付」という。)。

右貸付金は、即時に、原告ジャフコの指示により、同原告が当初から予定していたとおり、アップル不動産の口座に入金された上、アップル不動産名義で原告らに対して送金され、譲渡代金は決済された。

5 本件株式譲渡の結果、原告ジャフコの被告アップルジャパンに対する一億九五〇〇万円の貸金債権が残存することになり、同被告は、同原告に対し、別紙弁済目録記載のとおり、元本分として五五〇〇万円、利息分として二六九九万八六二五円合計八一九九万八六二五円を弁済した。

本件各手形は、本件貸付金残額の支払のため、平成四年九月三〇日又は同年一一月二五日、被告アップルジャパンにより原告ジャフコに対して振出交付されたものである。

6 本件株式譲渡は自己株式取得の禁止に該当し、無効である。

商法二一〇条が自己株式の取得を厳しく禁止している理由は、自己株式の取得を認めると、株主に出資を払い戻したのと実質的に同様の結果を生じ、会社の財産的基礎を危うくすること、一部の特定の株主から株式を買い取ることによって特定の株主を優遇する結果になり、株主平等の原則に違反すること、ことに資本による有償取得の場合には、売却株主のみが出資金の払戻しを受け、会社が危機にあるときは危険を他の株主に転嫁することになること等の弊害が生じることからであるが、本件において原告ジャフコが最終的に行ったことは、原告ら所有の被告アップルジャパンの株式をアップル不動産名義で同被告に譲渡し、この譲渡代金を捻出するために同被告に対して譲渡代金相当額を貸し付け、同被告から原告ジャフコに対し、譲渡代金相当額の借入金を利息を付して返済させているということであり、これらは、正に商法が自己株式の取得を厳しく禁止しようとした前記の趣旨、目的に根本的に違背するものであって、到底容認することができないものであることは明らかである。原告ジャフコは、かかる結果となったのは、すべて被告早藤の意向に従ったためであると主張するが、株式の買戻しを求めたのは同原告であり、買戻しに関するすべての手続も同原告の指示によって進められたものである。

したがって、本件株式譲渡は、アップル不動産名義で被告アップルジャパンの計算によりなされた自己株式の取得として無効であり、右譲渡代金の支払のためにされた本件貸付も無効なものといわざるを得ない。そして、本件各手形が本件貸付金残額の支払のために振出交付されたことは前叙のとおりであるから、本件各手形金債務が不存在であることはいうまでもない。

六  抗弁に対する認否及び原告ジャフコの反論

1 抗弁1の事実は認める。

2 同2の事実中、原告らが昭和六二年七月以降被告アップルジャパンに出資し、その株式を取得したこと及び被告アップルジャパンが平成二年に至り、その所有する営業店舗の約半分を第三者に譲渡し、同被告の株式が将来上場される可能性が皆無となったことは認めるが、その余の事実は否認する。

3 同3の事実中、被告アップルジャパンの株式の買戻価額は、出資金額に年四パーセントの利息を付した金額と決定されたこと、原告らとアップル不動産との間で被告アップルジャパン主張のとおりの株式譲渡契約が締結されたこと及びアップル不動産は、被告早藤が代表取締役であり、同被告が株式の大半を所有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

4 同4の事実中、原告ジャフコが平成三年三月二九日、被告アップルジャパンに対し、一億九五〇〇万円を貸し付けたこと及びアップル不動産から原告らに対し、譲渡代金が支払われたことは認めるが、その余の事実は否認する。

5 同5の事実は認める。

6 同6の主張は争う。

7 原告ジャフコの反論

(一) 原告ジャフコは、株式公開をめざす優良な中堅・中小企業に対して投資し、その成長を促すことを業とする投資会社であり、被告アップルジャパンは、京都府、滋賀県を中心にコンビニエンスストアを展開していた未公開中堅企業であった。

原告らは、昭和六二年七月から平成元年四月にかけて、被告アップルジャパンに出資し、その株式を取得した。平成二年五月当時の被告アップルジャパンの株主構成は、同被告の代表取締役である被告早藤が約五二パーセント、原告らが約二九パーセントであった。

(二) ところが、被告アップルジャパンは、平成二年に至り、大株主である原告らに無断で、コンビニエンスストア事業からの撤退を決定し、同被告所有のコンビニエンスストア店舗のうち約半数に当たる一七店舗を株式会社セブン・イレブン・ジャパン(以下「セブン・イレブン」という。)に譲渡した。原告らとしては、被告アップルジャパンのコンビニエンスストア事業の成長と将来の同被告株式の店頭公開に期待して、同被告に投資してきたため、同被告の事業方針の重大な変更に接し、もはやこれ以上投資を継続することは困難な状況に至った。これに対し、被告早藤は、同年七月以降、原告ジャフコに対し、今後は不動産事業を中心として事業展開を図るが、営業譲渡によって株主には迷惑をかけない、原告ら保有の株式を利息を付けて買い取る用意がある旨申し入れてきた。原告らとしても被告アップルジャパンがコンビニエンスストア事業から撤退し、その株式が公開される可能性がなくなったことから、被告早藤に対し、被告アップルジャパンの株式を売却することとし、右申出を受けて、同年八月末以降、被告早藤との間で株価算定の交渉を開始した。

(三) 被告早藤は、平成二年九月二一日には、原告らの保有する株式のうち五五〇株を平成三年夏ころまでに簿価純資産価格に相当する一株四五万円で買い取る旨を表明し、原告ジャフコが同年一〇月一一日これを応諾したため、株価は一旦は一株四五万円と決定された。しかし、その後被告早藤から減額の要求がなされ、結局、同年一一月一五日、被告早藤との間で、同被告自身又は同被告の指定する者が、原告らの保有する全株式のうち、五五〇株を平成三年三月末日までに、残株三九〇株を平成四年三月末日までの二回に分けて買い取ること及び一回目の株価は取得原価プラス株式保有期間につき年四パーセントの割合による金額とすることが合意された。

(四) 原告ジャフコは、平成三年三月末の株式譲渡契約に向け、同年二月一三日、被告早藤に宛てて契約書案を送付し、同被告が株式譲受人を指定するよう申し入れたところ、同被告は、アップル不動産を指定してきた。原告ジャフコが確認したところ、アップル不動産の株式のほとんどは被告早藤の所有で、同社は同被告の個人会社であり、被告アップルジャパンとは資本関係がないことが判明した。加えて、アップル不動産は従前から宅地建物取引業の免許を取得して不動産業を営んでいること、被告アップルジャパンを中心とするアップルグループは、今後不動産業を中心に据えて事業展開を図ろうとしており、アップル不動産はその中核会社となるとされていたことから、原告ジャフコはこれを受け入れた。

(五) ところが、被告早藤は、平成三年三月六日になって突然、原告ジャフコに対し、株式譲渡代金の借入れを申し入れてきた。

原告ジャフコは、アップル不動産との間ではそれまで取引がなかったことから、同月二〇日、同社振出の約束手形の差入れ、被告早藤の連帯保証並びに被告アップルジャパンの保証及び不動産担保の提供を条件にアップル不動産に対して手形貸付による融資を実行する旨承諾した。ところが、被告早藤は、同月二二日になって、アップル不動産が手形取引をしておらず、当座預金を持っていないこと及び被告アップルジャパンの方が既に原告ジャフコからの融資実績があったことから、新規取引となるアップル不動産に比べて被告早藤らにとって手続が簡便であることを理由に、被告アップルジャパンからアップル不動産に対して右株式譲渡代金を転貸するので、アップル不動産に対する融資に代えて、被告アップルジャパンに対して右転貸資金を融資することを要請してきた。そこで、原告ジャフコは、急遽融資先を被告アップルジャパンに切り換え、三月二九日、同被告に対し、元本弁済期平成四年三月二七日、利息年九パーセントとして一億九五〇〇万円を貸し渡した。その結果、同被告から転貸を受けたアップル不動産は、同日原告らに対し、株式譲渡代金を送金して支払をなした。

(六) 以上のとおり、原告らは、あくまで被告早藤の個人会社であるアップル不動産に対して株式を譲渡したのであり、本件株式譲渡は商法二一〇条に何ら抵触していない。アップル不動産による本件株式の購入が同社の計算によってなされたことは、同社の貸借対照表の資産の部に購入した株式が、負債の部に被告アップルジャパンに対する借入金がそれぞれ計上され、被告アップルジャパンの貸借対照表の資産の部にこれに対応するアップル不動産に対する貸付金が計上されていることから明らかである。

また、被告アップルジャパンが、本件貸付後、別紙弁済目録記載のとおり、長期間にわたって平穏裡に弁済を継続してきたことは、同被告の自認するところであり、このことは、本件貸付の有効性に何らの問題もない何よりの証左である。

被告アップルジャパンが、平成四年一二月一九日付け通知書をもって、突然原告ジャフコに対して本件株式譲渡の効力を否定する挙に出たのは、ひとえに、バブル経済の崩壊による不動産不況の深刻化により、被告アップルジャパン及びアップル不動産が大々的に展開しようとした不動産事業がその後急激に悪化したことから、同被告のアップル不動産からの転貸金の回収その他予定していた資金計画が破綻し、資金繰りが窮地に陥った結果に他ならない。

(乙事件)

一  請求原因

1 甲事件請求原因1ないし4のとおり

2 原告ジャフコは、平成元年九月二七日、被告アップルジャパンとの間で、両者間の手形貸付その他一切の取引に関して生じた債務について遅延損害金を年一九パーセント(年三六五日の日割計算)とする取引約定を締結した。

3 被告早藤は、同日、被告アップルジャパンの原告ジャフコに対する前項の債務について連帯保証をした。

4 よって、原告ジャフコは、被告早藤に対し、保証債務履行請求権に基づき、

(一) 本件1、2手形の手形金合計二二一〇万八四二四円及びこれに対する満期の日の翌日である平成四年一二月二六日から支払済みまで約定の年一九パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による遅延損害金

(二) 本件3ないし16手形の手形金合計一億二二三四万八三五二円並びに本件3手形の手形金に対する甲事件の訴状送達の日の翌日である平成五年二月三日から及び本件4ないし16手形の各手形に対する対応する各満期の日の翌日から各支払済みまでいずれも商事法定利率年六分の割合による遅延損害金

の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  抗弁

甲事件の抗弁1ないし6のとおり

したがって、主債務である被告アップルジャパンの原告ジャフコに対する本件各手形金債務が存在しない以上、被告早藤の連帯保証債務も発生しない。

四  抗弁に対する認否反論

甲事件の抗弁に対する認否反論のとおり

(丙事件)

一  請求原因

1 甲事件の抗弁1ないし6のとおり

2 よって、被告アップルジャパンは、原告ジャフコ及び丙事件被告らに対し、請求の趣旨第1項のとおりの確認、原告ジャフコに対し、同第2項のとおりの確認及び同第3項のとおりの手形の引渡し並びに悪意の不当利得返還請求権に基づく同第4項のとおりの金員の支払を求める。

二  本案前の主張

1 請求の趣旨第1項の請求は、原告ジャフコ及び丙事件被告らと被告アップルジャパンとの間で本件株式譲渡契約の無効確認を求めるものであるところ、右は、(1)過去の法律行為の無効確認を求めるものであること、(2)他人間の法律行為の無効確認を求めるものであること、(3)右契約が無効であるからといって、直ちに被告アップルジャパンと原告ジャフコとの間の本件貸付が無効になるわけではないことに照らせば、確認の利益がなく不適法である。

2 同第2項の請求中、本件11ないし16手形についての手形訴訟(甲事件)の被告アップルジャパンに対する訴状送達は平成五年一月二五日、本件の原告ジャフコに対するそれは同月二八日であるから、本件訴え中、右手形にかかる部分は同一訴訟物についての甲事件の後訴に当たり不適法である。

三  本案前の主張に対する反論

1 過去の法律行為の確認もそれによって現在の権利関係の解決ができるときは許容されるし、また、甲事件の抗弁のとおり、本件株式譲渡と本件貸付は、商法二一〇条を潜脱するために行われたものであるから三者間での一体の契約であり、両者は一方が無効であれば他方も無効になる関係にあるから、本件は他人間の法律関係であっても確認の利益はある。

2 訴訟係属の時期については、訴状受理日によって決すべきである。本件のそれ(本件1、2手形分を除く)は平成五年一月一一日、本件各手形の手形訴訟のそれは同月一三日であるから、かえって甲事件の訴えが本件訴えの後訴に当たり不適法である。

3 訴状送達により訴訟係属があったと解するのは、被告が訴えの内容を知り得ないためであるところ、原告ジャフコは本件訴えに先立つ被告アップルジャパンの手形取立禁止等の仮処分事件において、本件訴えの内容を了知していたのであるから、本件では訴状提出時を基準とすべきである。

四  請求原因に対する認否反論

甲事件の抗弁に対する認否反論のとおり

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  甲事件の被告アップルジャパン及び丙事件の原告ジャフコの各本案前の主張について判断する。

1  丙事件請求の趣旨第1項の請求について

被告アップルジャパンが、本件株式譲渡が無効であることを前提として、丙事件の請求の趣旨第2項ないし第4項において現在の権利関係の確認及び給付を求めていることは、弁論の全趣旨から明らかであり、これらの請求によって紛争の解決が図られる以上、更に改めて本件株式譲渡の無効確認を求める訴えの利益はないから、丙事件請求の趣旨第1項の請求は不適法である。

したがって、丙事件の原告ジャフコの本案前の主張1は理由がある。

2  甲事件の請求及び丙事件の請求の趣旨第2項の請求について

(一)  甲事件の手形訴訟の訴状は、本件1、2手形については平成五年二月四日、本件3ないし10手形については同年二月二日、本件11ないし16手形については同年一月二五日に被告アップルジャパンに送達され、丙事件(右手形に対する債務不存在確認請求訴訟)の訴状は、原告ジャフコに同年一月二八日に送達されていることは本件記録上明らかである。

(二) まず、手形訴訟が提起されている場合に当該手形について債務不存在確認訴訟を提起することは民訴法二三一条に抵触すると言うべきである。

右両訴訟は同一の権利義務の存否に関するものであるから同条の趣旨が当てはまるところ、手形訴訟においては迅速な審理のために証拠制限、反訴の禁止等が定められ十分な防御手段が与えられていないとしても、手形判決に対する異議申立後は通常の訴訟手続が行われるのであるから、その手続内で手形金債権の存否につき審理を行えば足り、右訴えを許容する必要性はないからである。

(三) しかし、手形金債務不存在確認訴訟が提起されている場合に当該手形についての手形訴訟を提起することは、右と事情を異にし、同条の禁ずるところではないと解すべきである。

手形訴訟手続は前記のように迅速な審理のために設けられた特別の訴訟手続であるところ、債務不存在確認訴訟の提起が先行することによって手形訴訟が提起できないことになると、債務不存在確認訴訟の利用の仕方いかんによっては手形訴訟制度を事実上利用できない事態が生じ、右の制度目的が没却されて手形債権者の手形訴訟を受ける権利が全うされないことになり、また、通常の訴訟手続である債務不存在確認訴訟において反訴として前記のような制限のある手形訴訟を提起することは困難であるからである。

そして、右からすれば手形判決に対して異議申立てがされ、通常の訴訟手続となった時点で二重起訴の状態になったとしても、その時以後、当該手形訴訟の提起自体が遡って不適法となると解することもできない。

なお、このように解しても民訴法二三一条の趣旨は併合審理等を行うことにより全うすることが可能である。

(四)  したがって、同一の手形金債権について、手形訴訟が先に提起されている場合は債務不存在確認訴訟を提起することは許されず、債務不存在確認訴訟が提起されている場合は後に手形訴訟を提起することは許されることになるから、甲事件の被告アップルジャパンの本案前の主張は理由がなく、また、訴訟係属の時期は被告に対する訴状の送達時期をもって決すべきであるから丙事件の原告ジャフコの本案前の主張2は理由がある。

3  よって、丙事件の請求の趣旨第1項及び第2項中、本件11ないし16手形にかかる訴えは不適法であるから却下すべきである。

二  (甲事件について)

甲事件請求原因1の事実は、甲第一号証の一及び二の各一ないし三、第二号証の一ないし一四の各一、二並びに弁論の全趣旨によって認めることができ、その余の請求原因事実は、当事者間に争いがない。

三  抗弁1の事実、同2の事実中、原告らが昭和六二年七月以降被告アップルジャパンに出資をし、その株式を取得したこと及び被告アップルジャパンが平成二年に至り、その所有する営業店舗の約半分を第三者に譲渡し、同被告の株式が将来上場される可能性が皆無となったこと、同3の事実中、被告アップルジャパンの株式の買戻価額は、出資金額に年四パーセントの利息を付した金額と決定されたこと、原告らとアップル不動産との間で被告アップルジャパン主張のとおりの株式譲渡契約が締結されたこと及びアップル不動産は、被告早藤が代表取締役であり、同被告が株式の大半を所有していること、同4の事実中、原告ジャフコが平成三年三月二九日、被告アップルジャパンに対し、一億九五〇〇万円を貸し付けたこと及びアップル不動産から原告らに対し、譲渡代金が支払われたこと並びに同6の事実は当事者間に争いがない。

四  右争いのない事実と証拠(甲第一号証の一及び二の各一ないし三、第二号証の一ないし一四の各一、二、第五ないし第七号証、第一〇ないし第一三号証、第一四号証の一ないし七、第一五ないし第一七号証、第一九号証の一、二、第二〇号証、第二一号証の一の一ないし三、同号証の二の一ないし一四、第二二ないし第二五号証、第二七号証、第三三号証の一、二、第三四ないし第四二号証、第四三、四四号証の各一ないし三、第四五、四六号証、第四七号証の一ないし三、第四八ないし第五〇号証、第五一号証の一ないし四、第五二号証の一ないし三、第五三号証、第五四、五五号証の各一ないし四、第五六ないし第六二号証、第六三号証の一ないし四、第六四号証の一、二、第六五号証の一ないし三、第六六ないし第六八号証、第七〇号証の一ないし三、第七二、七三号証、第七八、七九号証、第八二号証、第八四ないし第八六号証、第八七号証の一ないし三、第八八号証、第九一、九二号証、第九四号証、第九六号証の一ないし八、第九七号証、第九九号証の一、二、第一〇一ないし第一〇三号証、第一〇五号証の一、二、第一〇六号証、第一〇七号証の一、二、第一〇八号証の一ないし三、第一〇九号証の一ないし一一、第一一〇号証の一ないし六、第一一一号証、第一一二号証の一、二、第一一三、一一四号証、第一一六ないし第一一八号証、第一二〇、一二一号証、第一二二号証の一、第一二三ないし第一二八号証、乙第一ないし第九号証、第一〇、一一号証の各一ないし六、第一二号証、第一三号証の一ないし五、第一四号証、第一五ないし第一七号証の各一、二、第一八号証の一ないし八、第一九号証の一ないし一〇、第二〇号証の一ないし三、第二一号証の一ないし四、第二二号証の一、二、第二三ないし第二五号証、第二六号証の一ないし五、第二七号証の一ないし六、第二八号証、第三二号証、第五七号証の一部、第六五号証、第六九号証、第七三、七四号証、第七六、七七号証、第八〇、八一号証、第八五号証の一部、第八六号証の一ないし三、第八七号証の一ないし四、第八八号証、証人岩佐竹治、同小野沢隆、被告早藤本人の一部)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定に反する乙第五七号証及び第八五号証の記載並びに被告早藤本人尋問の結果は前掲各証拠に照らし採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告ジャフコは、株式公開をめざす優良な中堅・中小企業に対して投資し、その成長を促すことを業とする投資会社であり、丙事件被告中信合同ファイナンス株式会社も、同様である。その余の丙事件被告らは、同原告が組合員代表者を務める投資事業組合である。

被告アップルジャパン(代表者被告早藤)は、昭和六二年七月当時、京都府、滋賀県を中心にコンビニエンスストアを展開していた未公開中堅企業であり、額面株式一株の金額五万円、発行済株式の総数六〇〇株、資本の額三〇〇〇万円であった。

2  原告ジャフコは、昭和六二年一月、系列会社である野村証券株式会社(大津支店)の紹介で被告アップルジャパンを知り、積極的に営業活動をした結果、同被告が原告らの資本の受入れを受諾したため、昭和六二年七月三〇日、第三者割当増資により、丙事件被告中信合同ファイナンス株式会社を除く原告らが一株三〇万円で五〇〇株を引き受ける形で合計一億五〇〇〇万円の投資がなされた。そして、丙事件被告中信合同ファイナンス株式会社は、同年九月、被告早藤所有の被告アップルジャパンの株式五〇株を譲り受ける形で同被告に投資をした。

ただ、投資審査の過程で被告アップルジャパンの会計処理に不明朗な点があったことから、原告らは、投資の条件として、同被告に対し、会計面を整備すること等を要望し、このため、昭和六二年七月三〇日行われた調印式において、被告早藤は、原告らに対し、被告アップルジャパンが原告らの投資を受けるに当たり提出した有価証券発行目論見書の記載内容が適正で、かつ、重要な事実が欠如していないこと、原告らの投資を受けた後、速やかに監査法人又は公認会計士と監査契約を締結すること、同被告に経営上重要な影響を及ぼす事態が発生した場合又は経営上の重要事項及び方針に変更がある場合には、遅滞なく報告すること、同被告が右事項に違反し、原告らからそれを理由に株式の買取りの請求を受けたときは、遅滞なく買取先の指定を行うか、又は、代表取締役の被告早藤が買い取るものとし、この場合の買取価格は、原告らの取得価額以上とすることを確約する旨記載された覚書に署名押印した。

原告らは、平成元年四月、同じく第三者割当増資により原告らが一株三五万円で三九〇株を引き受ける形で合計一億三六五〇万円の投資をした。

この結果、被告アップルジャパンの平成二年五月現在の発行済株式総数は三二〇〇株、資本の額は三億二二五〇万円となり、株主構成は被告早藤約五二パーセント、原告ら約二九パーセントとなった。

3  ところが、被告アップルジャパンは、平成二年に至り、大株主である原告らに無断で、コンビニエンスストア事業からの撤退を決定し、同被告所有のコンビニエンスストア店舗のうち約半数に当たる一七店舗を大手コンビニエンスストアであるセブン・イレブンに譲渡するための交渉を始めた。原告ジャフコは、平成二年五月上旬にはこの情報を入手し、事実関係の確認のため、被告アップルジャパンへの接触を求めていたところ、被告早藤の方から面談の申入れがあり、五月二三日、原告ジャフコ大阪支店で両者の話合いが持たれた。席上、被告早藤は、原告ジャフコ側の責任者の立場にあった岩佐取締役らに対し、「借入金が過大で収益を圧迫しているため、セブン・イレブンに店舗の半分を売却して営業譲渡をし、この売却代金で借入金を返済して無借金になり、経営体質をよくしたい。」と説明し、営業譲渡によって原告ら株主には迷惑をかけない旨言明した。

原告ジャフコの社内では、当時は折しも被告アップルジャパンに対する三回目の投資が話題になっていた時期であったが、岩佐取締役と安瀬常務取締役大阪支店長は、同被告に対して投資を継続することが困難であるとの認識を持った。

4  その後、被告早藤は、平成二年七月六日、原告ジャフコ大阪支店を訪れ、同原告側の担当者小野沢らに対し、セブン・イレブンとの交渉は売却代金の点でまだ折り合いがついていないこと、今後は、店舗売却後の残存所有不動産を活用する形で不動産事業に重点を置くことを説明し、「株主には絶対に迷惑をかけない。投資を引き揚げるということになれば、利子をつけて買い取る用意がある。」と言明した。

これに対し、原告ジャフコは、会社としてはもはや投資を継続する意味はないので、先方から株式買取りの申出があり、被告早藤に株式の買取意思があるうちに同人に対して株式を売却して撤収することを決定した。

岩佐取締役は、当年八月末、被告アップルジャパンに対し、電話を入れ、同被告の白井専務から売却交渉の進み具合を確認するとともに、同人に対し、直接会って話をするため、九月六日に訪問したいこと及びそろそろ株式買取りの話をしたいので被告早藤に伝言してほしい旨を申し入れた。

岩佐取締役は、同年九月六日、被告アップルジャパンを訪れ、同被告の白井専務及び森田常務と面談した。同被告側からはセプン・イレブンとの交渉の進捗状況、売却代金は五五億円であり、それを借入金等の返済に充て、同被告は今後無借金で安定的な経営を行うこと、コンビニエンスストアの営業は止め、関連会社のアップル不動産を中軸に据えて不動産事業を展開することなどの説明がなされ、岩佐取締役は、原告らが一株三〇万円と三五万円で株式を取得していることを考慮に入れて買取価額を考えてほしいと申し入れた。

5  被告早藤は、平成元年九月一一日、白井専務を伴って原告ジャフコ本社を訪れ、岩佐取締役らに対し、セブン・イレブンとの売却交渉が妥結し、売却代金総額は五四億円と決定したこと、被告アップルジャパンは、この売却代金を借入金等の返済に充て無借金の会社になり、今後は残存不動産等を利用して不動産開発事業を推進していくこと等を説明した上、ついては、セブン・イレブンに対する営業譲渡を承認するために開催する同被告の臨時株主総会で賛成してほしいと申し入れた。被告早藤は、この説明の際に、同日付けの臨時株主総会招集通知、被告アップルジャパンとセブン・イレブンとの間の覚書、売却店舗の物件別価格明細、不動産開発関連事業に関する多数の資料を原告ジャフコに交付した。右臨時株主総会の招集通知には、議案の説明として、「今後は、日本で最も注目を浴びている滋賀県で順調に業績を上げている不動産事業の拡充発展を企図することを経営の主眼とし、新事業及び不動産事業の経営に一意専念する。」旨が記載されている。

次いで、岩佐取締役から被告早藤に対し、株式の買取りについて話がなされ、価額については、岩佐取締役から株式評価の方法については簿価純資産、時価純資産又はその中間の三通りの方法があるが、概算だと簿価純資産では一株四五万円、時価純資産では一株六〇万円になることが説明され、被告早藤は検討したいと返答した。

買受人については、被告アップルジャパンはだめなので、被告早藤個人かその関連会社のどちらかになるとの岩佐の説明に対し、被告早藤は個人で買い取りたいと述べ、買取りの時期については、被告早藤から平成三年三月までに半分、平成四年三月までに残りの半分を買い取ることにしたいとの希望が表明された。

岩佐取締役は、被告早藤に対し、次回に残存不動産の資産明細を持参するよう要望した。

6  被告早藤は、平成二年九月二一日、前回要望された残存所有不動産の明細及び評価を持参して原告ジャフコ大阪支店を訪れ、その時価評価は二七億円程度であることを説明した。これに対し、岩佐取締役は、時価純資産が二〇億円であれば、三二〇〇株で除して一株六二万五〇〇〇円となることから一株当たり六〇万円での買取りを要求したところ、被告早藤は一株四五万円でなら買い取ることを言明した。

被告アップルジャパンの営業一部譲渡の件は、平成二年九月二八日に開催された同被告の臨時株主総会で承認された。

原告ジャフコは、九月二一日の話合いを踏まえて、被告早藤の一株四五万円で買い取る旨の申出に応ずることを決定し、岩佐取締役は、平成二年一〇月一一日、京都の新都ホテルにおいて、被告アップルジャパンの白井専務に対し、その旨を伝えた。

ところが、一〇月末になって、被告早藤から、電話で、税金が当初考えていた金額の約1.5倍に膨らむことを理由に買取価格の減額要求が出され、一一月七日、京都のセンチュリーホテルで改めて交渉が持たれた。席上、被告早藤が一株三〇万円で買い取りたいと申し出たのに対し、岩佐取締役は、取得原価どおりではコスト分も出なくなると反論したため、話合いがつかず、一一月一五日、被告早藤が原告ジャフコ本店を訪問して話合いが続行された。その結果、投資事業組合の管理手数料コスト(年三パーセント)に若干の上乗せをして、取得原価に年四パーセントを加えた金額を買取価額とすることで合意が成立した。買取りの時期については、第一回投資分は平成三年三月末日まで、第二回投資分については平成四年三月末日までに買い取ることとされたが、被告早藤から、万一資金繰りがつかない場合には、原告ジャフコに金融機関を紹介してもらえるかとの打診がなされた。これに対し、原告ジャフコ側は、紹介することは可能だが、その場合には第二回投資分についても平成三年三月に一括して買い取ってほしいと応じ、これに対して、さらに被告早藤が、その場合には、第二回投資分の買取価格については、時価純資産ではなく、それより安い第一回投資分のそれと同じにしてほしいと申し入れ、結局その旨の合意が成立し、平成二年一一月一五日、以上のような内容で被告早藤が株式を買い戻すことを保証する旨の原告ジャフコ及び丙事件被告中信合同ファイナンス株式会社宛ての確認書各一通が差し入れられ、その後の株式譲渡契約の事務手続は、原告ジャフコ側は伏見部長が、被告アップルジャパン側は白井専務がそれぞれ窓ロとなって進めることが取り決められた。

7  被告アップルジャパンの平成二年一二月一一日付けの定時株主総会の招集通知には、営業譲渡後の営業方針として、「当社は、小売業の縮小によって人手問題を解決した後、残った資産を効率的に活用するため、不動産に比重を置き、積極的に展開、拡充していく所存である。」旨が記載されている。

岩佐取締役は、平成三年一月一七日、伏見部長を伴って被告アップルジャパンの新しい本社屋を訪問し、同被告の業務状況を見分した。その際、被告早藤は、今後は、アップル不動産を中心に、売買、賃貸の仲介、宅地分譲、戸建販売から、ゴルフ場の共同開発のような大規模事業まで積極的に手掛けていくことを強調し、平成二年九月以降の被告アップルジャパンの不動産関連事業を記載した事業計画概要等の資料を原告ジャフコ側に交付した。

原告ジャフコは、平成三年二月一三日、被告アップルジャパンに対し、株式譲渡契約書の案を送付し、被告早藤が株式譲受人を指定するよう書面で申し入れたところ、同被告は、譲受人としてアップル不動産を指定した。伏見部長は、白井専務に対し、電話で、アップル不動産は被告アップルジャパンの子会社ではないか、資本関係の有無について確認したが、アップル不動産の株式の大半は被告早藤が所有し、被告アップルジャパンとは資本関係がない旨の回答があった。原告ジャフコは、これまでの被告早藤との交渉の中で、営業譲渡後は不動産事業を展開すること、アップル不動産はその中軸となることを繰り返し聞かされてきたので、アップル不動産が譲受人となることについて疑問を持たなかった。

アップル不動産は、昭和六一年八月九日、不動産の売買及び仲介等を主たる目的として設立された。額面株式一株の金額五万円、発行済株式の総数二〇〇株、資本の額は一〇〇〇万円であり、代表取締役は被告早藤である。宅地建物取引業の免許(昭和六三年一月二五日京都府知事免許から建設大臣免許へ、平成三年一月二三日、滋賀県知事免許へと免許換えがなされている。)を有し、平成元年九月一日から平成二年八月三一日までの売上高は一億四一五五万円に上っている。

8  ところが、被告早藤は、平成三年三月六日、原告ジャフコ本店を訪れ、同原告に対し、突如として、同月末日に予定されていた株式譲渡代金全額の借入れを申し入れた。岩佐取締役は、平成二年一一月一五日の時点で被告早藤から金融機関を紹介してもらえるかという打診があったので、場合によって他の金融機関を紹介することはあり得ると思っていたが、直前になって、しかも原告ジャフコに対しての直接の申込みであったこととアップル不動産とはそれまで全く取引がなかったことからひとまず社内で検討すると回答した。被告早藤は、アップル不動産の借入申込みについて、その返済能力の裏付けとして、アップル不動産は宅地建物取引業の免許を持っていて、これまでも手広く不動産業を営んできたが、今後はアップルグループの中核として益々発展していくことを強調し、被告アップルジャパン所有の愛知川町の物件を担保にいれてもよいと話した(右物件についての平成三年三月一八日付けの不動産鑑定書は後日原告ジャフコに提出された。)。

原告ジャフコは、社内で検討した結果、アップル不動産振出の約束手形の差入れ、被告早藤の連帯保証並びに被告アップルジャパンの保証と不動産担保の提供を条件に、アップル不動産に対し、手形貸付の方法で融資を実行することを決定し、三月二〇日、伏見部長が京都に出張して、その旨を白井専務に伝えたところ、同専務からは、アップル不動産は手形取引をしておらず当座預金を持っていないから、この条件ではどの程度時間がかかるか分からない、被告アップルジャパンであれば、既に融資実績を有するので、新規取引となるアップル不動産と比べて手続が簡便であるとの話が持ち出され、原告ジャフコが被告アップルジャパンに融資し、同被告がアップル不動産に転貸するという方法が可能かどうかについても双方持ち帰って検討することとなった。

そして、三月二一日(祝日)を挟んで、三月二二日、白井専務から、電話で、伏見部長に対し、やはり被告アップルジャパンからアップル不動産に対して株式譲渡代金を転貸するので、アップル不動産に対する融資に代えて、同被告に対し、この転貸資金を融資してほしいとの回答がなされたため、原告ジャフコもこれを了承した。

この結果、三月二六日と同月二九日付けをもって原告らとアップル不動産との間で、譲渡代金合計一億八九二五万五〇〇〇円の被告アップルジャパンの株式の譲渡契約が締結され、三月二九日、原告ジャフコから被告アップルジャパンに対して、手形貸付の方法により、元本弁済期平成四年三月二七日、利息年九パーセントと定めて、一億九五〇〇万円の貸付が実行された。そして、平成三年三月二九日、被告アップルジャパンからアップル不動産への転貸及びアップル不動産から原告らに対する株式譲渡代金の支払が順次実行された。

被告アップルジャパンは、平成三年一二月二六日に開催された定時株主総会において、会社の目的として新たに「不動産の有効利用に関するコンサルタント業」を追加する旨の定款変更を行い、将来の事業内容の拡大に備えた。

9  アップル不動産の貸借対照表の資産の部には、平成二年八月期までは投資有価証券はゼロであったのに、本件株式譲渡後の平成三年八月期以降は一億八九二五万五〇〇〇円として、譲渡にかかる株式が計上され、負債の部の合計金額が平成二年八月期から平成三年八月期以降約二億三〇〇〇万円以上増加していることからすると、被告アップルジャパンからの右株式譲渡のための借入金が含まれているものと推認される。

逆に、被告アップルジャパンの貸借対照表の資産の部には、平成三年九月期以降投資有価証券の記載はなく、短期借入金と短期貸付金の金額は、次のとおり推移している。

平成三年九月

短期借入金 一億九五〇〇万円

短期貸付金 一億九二二二万円

平成四年九月

短期借入金 一億六〇〇〇万円

短期貸付金 一億五九五七万円

短期借入金の減少は、後記のとおり、被告アップルジャパンが原告ジャフコに対して一部弁済をした結果であり、短期貸付金が約三二六五万円減少していることは同被告がアップル不動産から同額の弁済を受けたことを示しているものと推認される。

10  被告アップルジャパンは、原告ジャフコに対し、別紙弁済目録記載のとおり、利息を支払ったが、元本の弁済期である平成四年三月二七日にはその一部二五〇〇万円しか弁済することができなかったため、同被告の期限延長及び分割弁済の申入れにより、両者は、残元本一億七〇〇〇万円の弁済について、同年九月三〇日七〇〇〇万円を、同年一二月三一日一億円を弁済し、利息は年7.25パーセントに変更することを合意した。

ところが、同被告は、右変更後の弁済期である平成四年九月三〇日までに元本の一部として一〇〇〇万円しか弁済することができなかったため、同被告の弁済方法変更の申入れにより、両者は、残元本一億六〇〇〇万円の弁済について、同日、平成四年一〇月、一一月、平成五年四月から同年八月までの各月二五日及び平成五年九月二四日各一〇〇〇万円を、平成四年一二月から平成五年三月までの各月二五日各二〇〇〇万円を弁済することに変更することを合意した。

被告アップルジャパンは、平成四年一一月一〇日までに元本の一部として二〇〇〇万円を弁済したものの、同年一一月分以降の弁済について再び弁済方法の変更を求めたため、両者は、平成四年一一月二五日、残元本一億四〇〇〇万円の弁済について、別紙弁済方法のとおり弁済することを合意した。本件各手形はこの変更後の債務の支払のために被告アップルジャパンが原告ジャフコに対して振出交付したものである。

しかるに、同被告は、平成四年一二月一九日付け通知書をもって、同原告に対し、本件株式譲渡は商法二一〇条に違反するから、本件貸付は無効であると主張し、平成四年一二月二五日を支払期日とする本件1、2手形の支払を拒絶した。

五 右事実によれば、本件株式譲渡は、原告らとアップル不動産との間でなされたこと、アップル不動産と被告アップルジャパンとは代表取締役が同一であるものの、資本関係はなく、両者は実質的にも独立した別個の法人であることが明らかであり、アップル不動産による被告アップルジャパンの株式取得がいわゆる自己株式の取得に当たるないしは同被告の計算によりなされたと評価することはできない。

被告アップルジャパンは、資本の額がわずか一〇〇〇万円にすぎないアップル不動産が一億九〇〇〇万円余りもの借入れをしてまで同被告の株式を購入しなければならない理由と必要性はないから、アップル不動産が被告アップルジャパンのダミーであることは明らかであり、本件株式譲渡はアップル不動産の名義をもって同被告の計算でなされたものというべきであると主張するが、アップル不動産が本件株式の譲受人となった経緯及び同社が被告アップルジャパンのダミーといえないことは前記認定のとおりであり、被告アップルジャパンの主張がその前提を欠いていることは覆うべくもない。

また、被告アップルジャパンは、本件株式譲渡及び本件貸付により原告らのみが出資金の払戻しを受け、ことに原告ジャフコが出資を融資に切り替えたことにより利息の名目で二六〇〇万円を超える利益を得たことは、正に商法二一〇条が自己株式の取得を原則禁止することにより遵守しようとした株主平等の原則に違反するものであるとも主張するが、本件株式譲渡がなされるに至ったそもそものゆえんは、被告アップルジャパンが原告らとの間で締結された投資契約に違反したためにほかならず、右投資契約が無効であるとはいえない以上、被告アップルジャパンは、自ら招いた結果としてこれを甘受すべきものである。

以上のとおり、被告アップルジャパンの抗弁は理由がないから、原告の請求は主文第一項掲記の各手形判決が認容した限度で理由がある。

六  (乙事件について)

請求原因事実は、当事者間に争いがない。

被告早藤の抗弁が理由がないことは前叙のとおり

よって、原告ジャフコの請求はすべて理由がある。

七  (丙事件について)

請求原因が理由がないことは前叙のとおり

よって、被告アップルジャパンの請求中、主文第三項に掲記した請求以外の各請求はいずれも理由がない。

八  結論

以上のとおり、甲事件の請求は、主文第一項掲記の各手形判決が認容した限度で理由があるから、これと結論を同じくする右各手形判決を認可し、乙事件の請求はすべて理由があるから認容し、丙事件の請求中、主文第三項掲記の各請求は不適法であるから却下し、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却し、甲事件についての仮執行免脱宣言の申立ては相当でないから付さないこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法四五八条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官髙柳輝雄 裁判官髙橋光雄 裁判官岡野典章)

別紙<省略>

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